創世記

創世記12章

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危険な旅の中で希望を抱き続ける

12章から、アブラハムの物語が始まります。アブラハムは信仰の父と呼ばれる人物です。イスラエルにとって偉大な祖先であり、信仰の模範である人物それがアブラハムです。その通り、彼は主からの呼びかけに応える信仰的な人物として描かれています。しかし、聖書はアブラハムの欠点を包み隠さず描きます。聖書の関心は、理想的な人物を描いて読者を鼓舞することではなく、欠けのある人間を招き続ける神を伝えることにあります。この物語は偉人の伝記ではなく、主の呼びかけと、それに答える人間の物語です。

神はアブラハムに言われました。「あなたは生まれ故郷/父の家を離れて/わたしが示す地に生きなさい。/わたしはあなたを大いなる国民にし/あなたを祝福し、あなたの名を高める」。アブラハムは主の言葉に従って旅立ちました。

普通に考えれば、今の土地に留まることが安全であり、旅に出ることは危険でしかありません。しかし、アブラハムは、主の約束を信じます。ここに留まることは、まことの安心ではない。主が与えてくださる土地に入ってこそ繁栄がある。そのことに目に見える根拠は一つもありません。しかし、アブラハムは約束を信じ、希望を抱くからこそ、旅へと、危険の中へと出て行くのです。

主イエスを信じるということは、目に見えない希望を信じて出て行くということです。弟子たちは網を捨てて主に従いました。主イエスは「わたしの後に従いたい者は、自分を捨て、自分の十字架を背負って、わたしに従いなさい。自分の命を救いたいと思う者は、それを失うが、わたしのため、また福音のために命を失う者は、それを救うのである」(マルコによる福音書8:34-35)と言われました。主イエスを信じる者は、新しい生き方を始めることになります。それまでの生き方を捨てて、主を礼拝し伝道する生き方です。その生活は、元の生活に戻りたいという誘惑や、周囲からの無理解との戦いです。ただその戦いを、キリスト者は、主を信じ希望を見据え続けるからこそ戦うことができる。旅を継続することができるのです。希望がなければそれはできません。主の約束を信じ、危険な旅へと出て行ったアブラハムと同じです。

アブラハムはカナンに入りました。アブラハムは、主を信じておらずそれでいて豊かなカナン人の間で生活することになります。これもまた誘惑との戦いです。しかし、アブラハムは主の約束、将来の希望を信じ、主に従います。

「あなたの子孫にこの土地を与える」と言われる主に対し、アブラハムは祭壇を築きました。それは主を礼拝するためであり、礼拝は主の約束に対するアブラハムの応答です。語り、返答する。神と人間との対話の関係、人格的な交わりがここにあります。神が応答を期待し、語ることをもって天地を創造されたということは1章で見た通りです。

このように、主に応答する者であり、模範とすべき信仰を持つのがアブラハムです。しかし、アブラハムを美化しすぎることはできません。アブラハムは素晴らしい。あまりそのことを強調しすぎると、わたしたちも努力を積み、アブラハムのような徳の高い人間になれば救いに至ることができるというような、自力救済の考えに陥ってしまうかもしれません。しかし、実際にアブラハムを招き、信仰を与えてくださるのは神であるのです。このような誤解が生じないよう、聖書はすぐにアブラハムの失敗を伝えます。イスラエルの偉大な先人の失敗を隠さず描くのは、読者が人間の力ではなく招いてくださる神に注目するためです。

アブラハムは自分の命の危険を感じたため、妻サラを妹と偽ります。妻と知れば、ファラオは自分を殺し、サラをファラオの妻とするに違いないと思ったからです。結果、ファラオはサラをアブラハムの妹と思い宮廷に召し入れました。

驚くべきことは、災いがアブラハムではなくファラオに降っているということです。なぜファラオがアブラハムの行いの煽りを受けなければならないのかは理解に苦しみます。ただ、イスラエルが主に背くとき、それはイスラエルだけの問題ではなく、周囲に悪影響を及ぼすということは言えるでしょう。宮廷での病の流行、創造の秩序のゆがみがここでは生じています。

そして、注目すべきことは、アブラハムがこのようなとんでもない被害をエジプトに与えたにも関わらず、彼が無事でそこを出て行くということです。ファラオの復讐を彼が受けなかったことは信じがたいことです。神はファラオに災いを降すが、アブラハムは撃たず、かえってファラオの復讐からアブラハムを守りさえするのです。彼の不信仰にも関わらずです。

主はアブラハムを招くことを止められません。約束の地へと導き続けられます。招き続けてくださる神に応え、危険な旅の中でも希望を捨てない者でありたいのです。

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